やさしさは空を見上げて・19日の富士山
お町から帰る道はずっと工事中で片側通行が続く
止められている間に夕空を見上げた
ついこの間まで
山の樹々は葉を身につけていたけれど
落葉樹は葉をみんなふるい落としている
その樹々の枝を通して優しい色の夕空が見えていた
車の外は工事車両と止められた車と
やっと通れた対向車達が排気ガスをまき散らしている
だけど
夕空を見上げているその瞬間は喧噪も憂いも遠ざかり
遠い日
育った家の前の路地で幼友達とカラスの群れを見たことを思い出した
不思議だね
子どもの頃の思い出はいつも心が温かくなる
かあさんの白い割烹着のお日さまの匂いや
火鉢の上に掛けられた煮豆の匂いや近所の夕飯の匂い
日が暮れてしまって
叱られることは間違いないのにまだ遊んでいたかったことや
八幡さまの境内の土の色や落ち葉の匂い
その八幡さまから家に帰る途中の大きな家の門のこと
八幡さまの隣のお寺にあった焔魔堂を覘いたこと
近所にあったおソースやさんの匂いや
空き地にたくさん咲いていたアカマンマの花のこと
二階の物干し台から眺めた師走の空の色
一瞬にして子どもの頃のたくさんの思い出がよみがえる
切ないね