Y版山姥日記

旧山姥日記

山姥村は今日も曇り

昨日今日も富士山(初めての黒い富士山)を書いてから
この30年の長い年月のことを思い出し始めた。

長いよなぁ・・・
親元で温々と暮らしていた懐かしいあの日々よりずっと長く此処にいるもの・・・

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        今では「山姥桜」と名乗りを上げてはいるけれど
      
        30年前は背も低くて

        両手の親指と人差し指で作る輪っかくらいの太さだったし

        山桜と八重桜と染井吉野で三姉妹だった我が家の桜。

        山桜(もしかしたら八重の方だったかも)は

        二代目山姥家愛犬「ツル」をつないでおいて枯れた。

        もう一本は

        庭をなおしたときに「公園木は屋敷内に要らない」と

        職人さんが勝手に伐採し 駐車場に埋められてしまった。



        現在 工房として使っているところはかつての住居部分で

        引っ越したときは気が付かなかったが
 
        断熱材も入っていなかったので

        乳飲み子のミルクの残りも 濡らしたタオルも

        冬は凍ってしまっていた。

        真冬の朝 起きると

        布団の上にうっすら霜が降りていたことさえあった。


        それでも

        太っ腹は自分の城を手に入れた事で満足のようだったし

        ワタシは初めての子育てに右往左往していたから

        あまり苦にはならなかったように記憶している。



        都会育ちの若い夫婦が

        村で生活をすることの大変さを実感するのはまだまだ先のこと。



        引っ越してすぐ郵便局へ行ったときに

        「ああ、あのカローラのバンに乗っている人ね」

        と、言われた。

        どうして見も知らぬ人が自分たちのことを知っているのか

        その時はまったく理解が出来なかったけど 今ではよく分かる。



        あの頃は

        まだ田舎暮らしを選択する人は少なかったし

        ワタシたちのような若造は好奇の的となっていたのだろう。

        ワタシたち夫婦が引っ越して 丸一日も経たないころ

        山姥村だけでなく この地域のほとんどの住人は

        ワタシたちのことを耳に入れていたのだと思う。

        戦後間もないころから この山間の小さな地域では

        出て行く人はたくさんいても 居着く人は本当に少なかったのだから。




        田舎暮らしがある種の流行になり

        「ロハス」という得体の知れない言葉が行き交っても

        ワタシはロハスな田舎暮らしをしている気はしていない。

        ただ、普通に家業に精を出す夫と共に子どもを育てたとしか思えない。



        『村人』と認められるまでは随分の年月が必要だった。

        赤ん坊を抱えてやって来て 又ここでも子供が増えて

        子ども達の成長と共に村にも馴染んでいったのかもしれない。



        もしも田舎暮らしを希望している人が居られるなら

        山姥村のような村を終の棲家にしたいのなら

        これだけは覚えておいて欲しいと思う。

        その村の文化を否定しないこと・受け入れること。


        最近は田舎特有の砂糖だらけの料理も出ないが

        その砂糖を多く使う料理は

        砂糖の非常に少ない時代には最高のもてなしだったのだ。

        それが脈々と今現在にまで受け継がれているのだから

        口に合わないという表情を決してしてはならない。


        村が存続できたのは 村人が運命共同体であったからで

        その運命共同体を批判してはいけない。

        そうしなければ為らなかったことを理解して欲しい。



        田舎の村で暮らすことは 素敵なことが沢山ある訳ではなく

        そこの生活を如何に楽しむかだ。


        ムカデに食いつかれて高熱を出しても

        台風が来て 崖崩れがあるのではないかと不安に思っても

        公共交通機関がなくても

        インターネットの回線が遅くても

        お洒落な店が皆無でも

        今時の文化を享受できなくても

        コンビニへ行くのに車を突っ走らさなくてはいけなくても

        美味しいものが食べたいと思ったら自分で作らなくてはならなくても等々



 
        鳥のさえずり 虫の声 清楚な山野草

        そして

        青い空にそよぐ風・白い雲が流れていく様子を

        自分だけのものに出来るのだから

        それは本来の自分を引き出してくれるパラダイスだと思って




        楽しんでください・・・