Y版山姥日記

旧山姥日記

鳶のショウちゃん

ほぼ週に一度 我が家にやってくる甥夫婦が
手拭いを一本出して言った
「○○さんから●ーコちゃんに渡してくれって」   (注:●ーコちゃん=まじょまじょ)

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         ○○さんとはショウちゃんのことだ

         ショウちゃんはワタシより2才年長で次男だ。

         ショウちゃんちのおじさんのことは良く覚えていないが

         いつも印半纏を羽織って格好良かった記憶がある。

         ショウちゃんのお兄ちゃんも鳶でおじさんによく似ていた。

         恰幅が良くて いつも優しかったのを覚えている。

         二人とも鬼籍に入ってしまった。

         ショウちゃんのお兄ちゃんは若死にだったんだなぁ。

         で、ショウちゃんが家業の鳶の頭になって久しい。


         昨年 父が亡くなったときは随分とお世話になった。

         「●ーコちゃんよぉ、これが正装ってもんよ」と

         父の葬儀の日は印半纏に手甲脚絆鳶ズボンを身にまとい

         雨だからよっと、茶色の革靴を履いていたっけ。

         鳶の正装をしたショウちゃんが

         水晶のお数珠を持って 斎場の入り口に立っているだけで

         浅草で所帯を持った父と母は喜んでるだろうと思ったものだ。

         そんな目立つ恰好をしているのに

         ショウちゃんは気配を消してしまうらしくって

         お焼香の時などはどこにいるか分からない。

         だけど

         車の出入りや人の出入りが混雑すると 必ず交通整理をして

         陣頭指揮者としてふさわしい働きぶりだった。

         出棺の時

         「木遣り歌おうか」と言ってくれたが

         参列していた人の顔ぶれを見て「止めとくわ」と遠慮していた。



         ショウちゃんはワタシたちのガキ大将だった。

         世田谷の商店街の裏の長屋が並ぶ路地で

         ショウちゃんを筆頭に まだよちよち歩きの子もいたと思う。

         遊ぶと言っても何をするという訳ではなく

         一列になって 路地を歩き回ったり

         お他所の家の玄関の階段に座って 駄菓子を仲良く食べたりで

         悪さをした覚えはない。

         ショウちゃんが許さなかったのだろう。

         ショウちゃんは真っ当なガキ大将だったんだなぁ。


         そのショウちゃんが鳶の階級が上がった記念に名入れの手拭いをくれた。

         鳶に階級があることなど知らなかったから 驚いた。

         驚いたと同時に お祝いより先にお披露目の手拭いを貰ったことに恥じた。

         知らなかったとは言え お祝いが先だろう。

         桐箱に入れたぐい呑みに熨斗紙を掛け 甥に持っていってもらった。

         ショウちゃんに電話しようかなと思ったけど

         なんだか恥ずかしいので止めた。


         ショウちゃんから貰った手拭いは 我が家の宝になるかもしれない。

         鳶って格好良いものねぇ。

         太っ腹も「ふ~ん」と言っただけだったけど

         太っ腹がショウちゃんのことを好きなのは分かっている。

         太っ腹自身とは異世界の人かもしれないけれど

         ショウちゃんは真っ当に生きているから 恰好良いし

         太っ腹のことを「センセイ」と呼んで 礼を尽くしてくれるから。

         昔気質だけど よい友達と思っている。

         鳶の手拭いって恰好良いよね。