Y版山姥日記

旧山姥日記

「夜市」

夜市

イメージ 1      恒川光太郎
                第12回日本ホラー小説大賞受賞作。
                怖さだけでなく、哀しみをたたえた傑作
                と、紹介されていた。


web KADOKAWAの紹介によると

日本ホラー小説大賞受賞作
端正かつ幻想的な文体、そして奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング。
新鋭・恒川光太郎の伝説的デビュー作! 

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた――。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。 

また、そのページには
ワタシの敬愛して止まない(そんなにお作を読んでいる訳ではないが)
荒俣 宏センセイは
怖さだけではなく
哀しみをたたえたストーリーに、
私はめずらしく泣いた。
と、書いておられる。



            読後、これがホラー小説なのと疑問は持った。
            けれども
            ネットで調べた読書仲間の夫・太っ腹によると
            やはりこの本を読んだ人は同じ思いのようで
            「作者がホラーだと言えばホラーなんだろう」と思うことにする。

            美しい話だった。
            怖いことかもしれない。
            でも
            美しい哀しい 子供の頃を思い出した時と同じ様な
            切ない思いが怒濤のように押し寄せてくる。

            ワタシの育ったところは
                        (随分と同じ事を今まで「追想」書庫で書いてはきた)
            東京の片隅の商店街で、其処は今でも車の往来が激しい商店街で
            立派な八幡さまが近くにあった。
            お祭りの時は大きな御神輿も出たし 子供の山車も出た。
            そのお祭りで
            子供達は目を輝かせて テキ屋のオジサンとのやりとりを楽しんでいたし
            綿菓子やハッカ飴、カルメ焼きに金魚釣り ヨーヨー釣りを存分に堪能した。

            ある年
            ワタシより一歳上の従兄弟がお祭りに行ったまま いなくなってしまった。
            ワタシの両親もだが 叔母や叔父は泣きながら探していた。
            近所の人たちも大騒ぎし 交番に駆け込もうとした時
            従兄弟はご機嫌で帰ってきた。
            ナンのことはない。テキ屋の使いっ走りをしていたのだ。

            大人達は怒るよりも呆れかえってしまって
            その従兄弟は叔父に拳固を一つ喰らっただけで放免と相成った。


            この「夜市」 を読んでいる間
            その時のことを思い出していたのは言うまでもない。

            あの時の八幡さまの境内の様子も騒がしい音もニオイも
            毎年やって来ていたハッカ飴を売るお婆さんのこと
            舞台で揃いの浴衣で踊っていた近所のオバサンたちのこと
            カルメ焼きの道具を買ったのに上手く出来なかったことなど
            次から次へ 走馬燈のように思い出されてきていた。

            子供の頃のことを思う時
            その切なさは 年をとるごとに強くなるのは何故だろう。
            
            あの子になんでアンナことを言ってしまったのとか
            あのバービードールはどこに行ってしまったんだろうとか
            笑ったこと泣いたこと悔しかったこと
            細部に至るまで思い出せるのに 最近のことは忘れてしまう。

            3歳のお祝いの時
            八幡さまの手前の大きなお宅の門の前で兄が写真を撮ってくれた。
            その時の兄の方を振り返るワタシ自身さえも思い出せるのに
            最近の出来事を覚えているには努力が必要だ。


            そんな事も考えながら「夜市」を読み終え
            太っ腹に「とても面白かった」とこの文庫本を渡した。
 



長野まゆみの一連の本の読後感に似ている様な気はするが
この「夜市」の方がずっとずっと切なく哀しく美しいと思った。