Y版山姥日記

旧山姥日記

墨の香

2月11日

午後4時42分
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            硯を洗った
            この香りはなんだろう
            とても懐かしい香りだ

            筆を洗っていると
            幻を見ているように
            香りが思い出を探り出していく

            毎年のお正月に母が着ていた着物の香りだ

            青墨の香りか

            亡くなった母の着物には香りがあって
            毎年の正月にその香りが家を満たしていた
            母はお正月用の着物は年に3日しか着なかった
            正月の三が日だけ着る着物と真新しい割烹着の
            その香りを今頃になって思い出した

            私の使っている青墨の香りは本当はまったく違う香りなのに
            不思議なこともあるものだ

            亡くなる2年前の今頃
            伊豆の達磨山の方を指さして母は言った
            山が微笑んでいるんだよと

            そうか・・・
            今朝、向かい側の山を見て山が微笑み始めたなと思い
            母の指さした姿を思い出したのだった

            あの年の5月
            母は倒れて、その後二度と会話は成り立たなかった

            能筆だった母の手を思い出す
            くせ字だねとワタシの字を見て笑っていた
            その笑う声も思い出した


            母は笑っているばかりの思い出