Y版山姥日記

旧山姥日記

お素麺箪笥

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  母が残してくれた物は沢山ありますが
  中でも
  この箪笥は思いで深いものです。
  
                        たぶん、
                        私で五代の女たちが使った桐の箪笥。
                        もう削りすぎて、薄くなっているし
                        おんぼろですが、捨てるに捨てられず

                        今では
                        本来の着物や帯に代わり
                        お素麺さまの御寝所になっています。


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  山姥家では、いつの頃からか
  新しい素麺は食べずに
  熟成させることにしました。

  もう何年も前
  お客様にいただいた
  包装紙は破れ、箱もぼろぼろの素麺。
  太っ腹も私も
  「なんじゃこれ!!」と思いました。



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   が!!

   恐る恐る食べたその素麺に対し

   「申し訳ございませんでした。
    私どもが浅はかでございました。
    心よりお詫び申します。」

     と 深々と首を垂れたのです。






                             物を知らないことに深く反省した瞬間でした。

                             素麺は「ひね」に限ります。
             
                             今では「3年もの」の黒帯も売ってはいますが
                             その頃は 太っ腹も私もまだ若く お貧乏でしたから
                             この世にこんなに美味しい素麺があるとは思いませんでした。
                             そのときから「お素麺さま」と呼ばせていただいております。

                             お素麺さまの保存方法を いろいろ試しましたが
                             密封が過ぎると妙な臭いがしたり
                             少し風を通すようにすると 虫が湧いたりと苦労しました。

                             母の残してくれた桐の箪笥が来たとき
                             私ども夫婦は
                             「お素麺さまのために!」と思ったのです。


    今年頂いたお素麺さま。
    くださった方の言は
    「今年中に食べてください、必ずですよ!」
    
    不思議に思ったので 太っ腹が理由を聞きますと
  
    「太っ腹さんが古い素麺が美味しいと言うので
     いろいろ調べたところ、この素麺に行き着きました。
     しかし、この素麺は来年まで置くと
     油の臭いが出てくるので 今年中に食べなさい。」

    との事でした。

    太っ腹は不承不承でしたが 昼食に食べましたところ
    またもや 夫婦して深く首を垂れ
    「お見逸れいたしました。」と反省いたしました。

    世の中に
    人を駄目にする物は数々あれど
    山姥家のそれは
    食べ物のみなのです。

    未だお貧乏な山姥家にとって
    自分で買えない美味なる物ほど
    悲しいものはありません。

    なので、このお素麺さまは今年中に食べ
    昨年買っておいたお素麺さまは
    お素麺箪笥の中で
    また一年の眠りについて頂くことにしました。