Y版山姥日記

旧山姥日記

花の香り

毎年買う植物がある。
山姥家全員 この花を一年草と信じて疑わないが
山から下りると地植えで咲いているし
清水や静岡では 冬でも繁茂している(かもしれない・・・)


         30年以上前のこと
         その頃は愛知県瀬戸市に暮らしていた。
         ハゴロモジャスミンの香りは
         その瀬戸市にあるアパートのある日の昼下がりの思い出。

         ぼろアパートから市営住宅に移り住んだ。
         5階建てのアパートの5階の角部屋で エレベーターはなかった。

         太っ腹は仕事が終わると階段を駆け上ってくる。
         その足音がぴたりと止まり 階下の部屋のドアがガチャンと開く。
         「すみませ~~ん」と太っ腹の声と
         階下の奥さんの笑い声がこだましていた。

         毎日それなのだから 近所でも有名になり
         やがて普段通りの事になって 笑い話にならなくなった

         そのアパートにハゴロモジャスミンが買ってあったと思う。
         遠い昔のことなので 記憶が薄ぼんやりとしてきてしまった。

         記憶の中では
         掃き出しの窓のそばにこの花を置き
         風が吹くと
         2DKの部屋中に香りが漂い
         親兄弟親類縁者のない土地で暮らす事への不安も薄れた。


         その後
         山姥村に引っ越してきてから
         花を買う余裕とてなく 子育てに埋没する日々が過ぎていた。
         
         ある日
         スーパーに漂う香りに引きつけられ
         園芸コーナーでこの花を買っていた。

         まだ、若く未来への希望だけで暮らしていた頃を思い出すとともに
         馥郁とした香りが 子育てに疲れていたワタシの心を和ませてくれた。

         以来
         毎年買う。

         今年も春だねとこの花を買って来ると家族に言われる。
         春ねぇ・・・と答えることにしている。